【旅:奥入瀬渓流C】



【2日目 その3】

奥入瀬渓流をその源まで遡り、十和田湖の東端「子ノ口」に出る。
時が止まったように穏やかな湖面が、音もなく悠然と佇んでいる。
人が少ないせいもあってか、ほんとうに静かで、時折り吹き抜ける滑らかな風だけが唯一、動きを感じさせるくらいだ。



十和田湖は地図で見るその形からもわかるように、火山の火口に雨水などが溜まってできたカルデラ湖だ。
陥没したところだけでもこの大きさなのだから、元の火山のスケールが思い知られる。

「子ノ口」からは周遊船が出ている。
乗り場の受付のおばさんが、湖畔の見所などを詳しく教えてくれる。
南にいった「休屋」というところが拓けていて、お勧めとのことだ。
ここから周遊船かバスで行けるらしい。

帰りを船にし、バスで向かうことにする。
湖畔の並木を抜けながら、20分くらいで「休屋」に着いた。

ここの港は、先ほどの「子ノ口」との間に突き出した御倉半島の西側、中山半島の入江に位置しており、周辺に旅館やホテル、食事処などが点在している。



遅まきの昼食をとるため、近くの食堂に入る。
何か名物あるかとメニューを見ると、「ひめマス」のお造りと塩焼きというのが載っている。
以前、琵琶湖畔の醒井で「びわマス」を食べたことがあるが、湖のあるところでは、「マス」が育ちやすいのだろうか。

お造りの見た目は、言われなければ「サーモン」かと思うくらいよく似ている。
味のほうは、「サーモン」に比べさっぱりとはしているものの、ほどよく脂がのっており、なかなかの美味だ。


食事を終え、湖畔を散策すべく外に出ると、これまでずっと曇っていた空から陽射しが照りはじめ、急に明るさと暑さをもたらしてくる。

有名な「乙女の像」がこの先にあるとのことで、そこまでのんびりと歩いてみることにする。

途中、汀近くに小島が見えてくる。「恵比寿大黒島」というそうだ。
溶岩でできた島らしく、よく見るとふたつの島が寄り添っており、それぞれに赤い屋根の小さな祠が建てられている。
どちらが恵比寿さんでどちらが大黒さんなのかはわからないが、島も祠も愛らしい。



「恵比寿大黒島」を左手に見ながらすこし行くと、浜辺からすこし引っ込んだところに、「乙女の像」が見えてきた。

思っていた像と姿も位置も違っている。

「確か湖の中にひとりの少女の像が立っているはずだが…」
どうやら田沢湖の「たつこ姫の像」と勘違いをしていたようだ。

あとで調べてみると、意外にもこの十和田湖と田沢湖とはある伝説でつながっていることがわかった。

さて、実際の「乙女の像」は、ふくよかな体つきをしたふたりの少女が向かいあい、
おたがいの左手どうしをふれあわせ、何かを伝えあっているような、重みのあるブロンズ像だ。



作者は高村光太郎。最期の作品だそうだ。

どっしりと地に足をつけ、強い意志をもって立つ姿は、“乙女”というよりも、さまざまな苦楽を経験した逞しい女性の姿に見えるのだが、どうなのだろう。
創作されたのは、戦後数年ほど経った頃らしいから、戦中を生き抜いてきた女性の強さと、再建を図ろうとする誓いを表現しているのかもしれない。




Copyright © つれづれなるままに All Rights Reserved.